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金蘭会セミナー


第156回
平成24年3月23日(金)

演題
「3月11日後の科学」
講師
坂東昌子氏(昭和31年卒)
NPO知的人材ネットワークあいんしゅたいん理事長  元日本物理学会会長  愛知大学名誉教授
 


講師写真

坂東昌子氏 プロフィール

専門:  素粒子論・非線形物理

略歴:
 1956年 大阪府立大手前高校卒業 京都大学理学部入学
 1965年 京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)
 1965年  京都大学理学部助手・同講師を経て
 1987年 愛知大学教養部教授、同法学部教授を経て、2008年定年退職
   
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女性研究者の地位の向上に関するプロフィールはこちら















セミナー後の懇親会での お弁当と
季節の本格和菓子です。

第156回金蘭会セミナー 感想文


科学・技術リテラシーと坂東昌子氏のメッセージ

(感想文 高橋克忠 昭和31年卒 文部科学省「サイエンス・メディエーター制度の推進」調査研究代表者)

 科学・技術に関して専門家と市民との間にある意識の乖離が様々な社会的歪を生み、
場合によってはパニックを引き起こすことを過去の事例が示している。

 特に3・11以降、多くの人々がそのことに気付かされたところである。いや、もはや
そういう言い方ではすまない深刻な状況に至っている。

 今回の坂東昌子氏のご講演はそのことを強く意識されて、市民が科学・技術と
正面から向き合う動機となる科学・技術リテラシー(教養教育)の一端を紹介された。

  一方、早くから女性研究者の地位の向上に取り組まれたことも控え目に語られた。
この取組みは日本を代表する京都大学女性研究者支援センターの設置(2006.9)
につながったが、それは科学・技術の研究者にとどまらず、国の施策としての
男女共同参画の中での「京都大学モデル」として広く知られるところとなっている。

  この科学・技術リテラシーと女性研究者の問題はしばしば一緒に論じられることが
多い。それは女性が子育てという観点から教育に携わる機会が多いからにほかならない。

  女性研究者の先達の事例を紹介されて、最後にプロジェクトXならぬプロジェクトWと
いう話で結ばれた。それだけをみると、女性もこんなに優れているという話をされたように
とられた方もおられるかもしれない。しかし、坂東氏の講演をこのように単純に捉える
ことは失礼であろう。

  すなわち、講演で述べられたことは、「女性に限らず、科学者として科学・技術に
正面から向き合う市民を育てるために何をどうなすべきか」というメッセージである。

  私は坂東氏が主幹を務められた日本女性科学者の会のシンポジウムや愛知大学に
おける教養教育研究会に招かれ、そこでの議論にも参加させて頂いたが、坂東氏の
考え方が反映されたその場の空気と上記のメッセージは脈絡が一致するものである。

  今回のご講演は男性の参加者が多いなかで少し謙虚に話されたように感じる。
私流の言い方を許して頂けるとすれば、男性は要素的思考が得意であり、女性は
システム的思考に優れている。

  良い悪いは別にして、3・11以降に専門家と称する人々に批判が集まっているのは、
この男性の要素的思考の中で体系化されてきた科学・技術の負の部分にその根源が
あることは言うまでもない。つまり、科学・技術の世界を専門馬鹿の集団とする捉え方である。

  システム的思考を得意とする女性がバランス良く科学・技術の世界に場をもち、
絵画や音楽に対すると同じように、誰もが科学・技術を特別視することなく、それに対して
正面から向き合うことが日常的になることで、より健全な社会が構築されるということである。

  その意味での女性に期待されることは大きく、また役割も大きい。坂東氏の思いは
そこにあると私は受け取っている。
 

       


 

セミナーの当日スライドです。
















































「3月11日後の科学」
概要
 

東日本震災は、科学の在り方を巡って、様々なことを問いかけられている。
特に原子物理学を専門とし、湯川秀樹先生の研究室で育った私には、
今回の福島事故を通して、原子力研究のたどってきた
経緯を見つめなおす機会となった。
また、低線量放射線の生体への影響の知見について、
生物学者と交流する機会を得て、
分野を横断する科学者のネットワークがいかに大切かを痛感した。
こうした経験を踏まえて、女性物理学者として改めて
深く考えることとなった「科学と社会のありかた」
について問題提起してみたい。


女性研究者の地位の向上に関する坂東昌子氏のプロフィール

1960年京都大学理学部物理学科卒、65年京都大学理学研究科博士課程修了、京都大学理学研究科助手、
87年愛知大学教養部教授、91年同教養部長、2001年同情報処理センター所長、08年愛知大学名誉教授。
専門は、素粒子論、非線形物理(交通流理論・経済物理学)。研究と子育てを両立させるため、博士課程の時に
自宅を開放し、女子大学院生仲間らと共同保育をはじめ、1年後、京都大学に保育所設立を実現させた。
研究者、父母、保育者が勉強しながらよりよい保育所を作り上げる実践活動で、京都大学保育所は全国の
保育理論のリーダー的存在になる。

その後も「女性研究者のリーダーシップ研究会」や「女性研究者の会:京都」の代表を務めるなど、女性研究者の
積極的な社会貢献を目指す活動を続けている。02年日本物理学会理事男女共同参画推進委員会委員長(初代)、
03年「男女共同参画学協会連絡会」(自然科学系の32学協会から成る)委員長、06年日本物理学会長などを務め 、
会長の任期終了後も引き続き日本物理学会キャリア支援センター長に。09年3月若手研究者支援NPO法人
「知的人材ネットワークあいんしゅたいん」を設立、理事長に就任。

・「4次元を越える物理と素粒子」(坂東昌子・中野博明 共立出版)、
・「理系の女の生き方ガイド」(坂東昌子・宇野賀津子 講談社ブルーバックス)、
・「女の一生シリーズ−現代『科学は女性の未来を開く』」(執筆分担、岩波書店)、
・「大学再生の条件『多人数講義でのコミュニケーションの試み』」(大月書店)、
・「性差の科学」(ドメス出版)など著書多数。

坂東昌子氏のホームページ




ページデザインS53年卒岸政輝 & ページ作成S50年卒谷村瑞栄