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金蘭会セミナー


第83回
平成16年11月19日(金)
演題
人体は再生できるか?−幹細胞とクローンー
講師
仲野 徹氏(昭和50年卒)
大阪大学医学系研究科・生命機能研究科教授

まず、クローンの意味から:遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)
・体細胞クローンは無性生殖により発生する。
・無性生殖では同じ遺伝子が受け継がれるため、同じ親から産生された個体同士はすべて同じ遺伝子を持つクローンとなる。

@幹細胞とは、再生とは。
幹細胞:自分自身と同じ性質を持った細胞を作り出す自己複製機能と、いろいろな機能を持った細胞を作り出す分化能を併せ持つ未分化な細胞である。
血液細胞や皮膚上皮の寿命の短い細胞を一生の間生産し続ける(再生する)のは幹細胞が存在するからである。
人類は進化の過程で多くの再生能力を捨て去ってきた。
最大256分割されてもそれぞれがもとの固体に再生するプラナリア(2番目の画像)とは大違いである。
ではなぜ再生能力を捨て去ってきたのか、「再生過程でがんが生じる事が多いからではないか」と仲野氏は語る。
最近神経や骨格筋といった寿命の長い細胞にも幹細胞が存在することが発見されている。(臓器幹細胞or組織幹細胞)
A再生医学の現状
再生医学の一つの目標:幹細胞を体外において増幅して細胞移植に用いること。
臓器幹細胞利用の欠点:組織中における頻度が低い。(血液で10万個に1個)
体外増幅の点からは造血幹細胞や上皮系の幹細胞は困難。
希望点:神経幹細胞や間葉系幹細胞では比較的容易とされている。
増幅しやすい環境などの研究が必要。
BES細胞(胚性幹細胞):初期胚から分化される全能性をもった細胞。つまりどういう器官にもなりえる細胞ということ。
利点:増幅能の大きさと分化能の大きさから将来性が期待される。
欠点:そのまま移植したら奇形腫(テラトーマ)を形成するため、移植したい細胞へと試験管内で分化誘導を行う必要がある。倫理的問題
心筋細胞、血液細胞、神経細胞、インスリン分泌細胞などへの分化誘導が報告されている。
C核移植クローニング
コピー元の動物の受精卵もしくは体細胞から核を抜き取りその核を別の未受精卵(核を不活化したもの)に埋め込むこと。
これの羊における最初の成功例が、ドリー(3番目の画像)。
しかし、内臓の疾患が多かったらしい。
肥満したクローンネズミ(4番目の画像)はその次世代のものが肥満していないので、その肥満は非遺伝的な(エピジェネティック)要因とおもわれる。
5番目の画像にあるように園芸業界ではクローン植物が大変多く、ランなどは何月何日にどの花をいくつ咲かせる、というところまでできているという。
D治療用クローニング
上記の核移植クローニングは患者と同じ遺伝子を持つので拒絶反応を起こさないですむので、クローン人間の作成と区別し、治療用クローニングと呼ぶ。
しかし、実際にヒトの治療に利用するためには倫理的、医学的に数多くの壁が立ちはだかっている。
●再生医学実用化への問題点
・生物学的な問題
 原理的に本当に可能なのか?
 サイズの問題を克服できるか?
・医学的な問題
 従来の治療法を上回るのか?
 安全性は確認できるのか?
・倫理的な問題
 細胞の市場化を防げるのか?
 ES細胞やクローンの利用は?
・社会経済的な問題
 コスト・ベネフィットの問題を克服できるか?
 医療の平等性を保てるか?
E近未来の医療に向けて
再生医学が「ブーム」のように期待感だけが先走っているが、ここ何年かの発展は目覚しいとは言うものの、実際の医療に幅広く応用されるためにはいくつものハードルを乗り越え、今後の何十にもわたる地道な努力が続けられなければならない。

ページ作成 S53年卒岸政輝 & S45年卒辻岡由起