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金蘭会セミナー


第93回
平成17年11月18日(金)
演題
われわれはなぜ嫌われているか?最近の日中関係を考える
講師
江田 憲治氏(昭和49年卒)
京都大学大学院 人間・環境学研究科 教授

江田氏には双子のお兄様がおられて、原稿をパワーポイントに加工されたのはその方であったようだ。

まず江田氏が日中関係を考えるようになったきっかけは今年(2005年)4月に上海を中心に起こった反日デモであった。
しかし、それ以前に江田氏が湖南省を旅行中、目にしていたことがらも興味を持つことになった理由の一つである。
2枚目の画像は、コンクールで一等賞を取った小学生の作文に添えられていたイラストである。大きな鶏が目の前の青虫を食べようとしている。つまり青虫が日本、鶏が中国というわけである。作文の骨子は「政治的、文化的、経済的に日本に勝つ!」というものであったらしい。また桃源というところでは村祭りの村芝居にラッパの音とともに日本兵が現れ、その日本兵をいかに打ち破ったかが演じられていた。江田氏は「日本人って中国人に随分嫌われているんだな」と驚いたらしい。

さて、江田氏は日本のメディアの論調に問題があるのではないかという。
4月の反日デモのときの論調を見てみよう。
@「中国の社会矛盾起因」説
 中国国内の貧富の差による中国人の不満のはけ口を反日行動にすり替えているという説。
A「中国政府扇動」説
 中国政府自体が中国人を反日行動に導いているという説。
B「反日教育原因」説
 教育のあり方が反日を植えつけているという説。

江田氏の意見
@については反日行動が起こったのが上海であったことを指摘して、豊かな地域で起こったのだから、貧富の差の不満の捌け口という意見には無理があるのではないか。
Aについては中国政府はデモをやめるようにという声明を出している。確かに軍隊を使ってまで鎮圧しようとはしなかった事は事実だが。ここで、考えられることは最初扇動されて、後にその反対の事を言われて、「はいそうですか」ときくような中国人のレベルではもはやない。
Bについては確かに日中戦争の事などに教科書のページを多く割いていることは事実である。しかし、それを語らないと中国の歴史が語れないのだからいたしかたがない。ただ、湖南省の作文の例に見るように、子供の頃は日本と日本人の事を大変憎んでいるが、大人になるにつれて「本当のところはどうなんだろう」と考える人が増えてくるようだ。

日本のメディアがそのように伝えていた頃、中国側では「今日の状況」の原因は日本側にある、と発言していた。(外交部報道局長)
まるっきりすれ違っていた訳である。

(1)日中関係とナショナリズムー問題の二重性
@中国におけるナショナリズムの変容
1919〜45年:外に国権を争い、内に国賊を除け→反帝国主義
(1919年5月ー6月に中国で起こった抗日運動:五四運動)
1949〜90年:日本軍国主義批判(支配階層と一般国民の区別)
1990年代以降:国家統合の要請
          対内:中華民族論「統一された多民族国家論」
          対外:「中華の振興」「愛国主義教育」
A日本側の「歴史認識」問題
・2001年8月13日に始まる小泉首相の靖国神社参拝(現在まで5回)
→「非戦を誓い平和を祈念する」という説明の無効性
理由:国威発揚と戦意高揚のための機関としての靖国神社の役割が大東亜戦争の肯定論につながるから。
・戦後補償裁判:日本軍による加害行為の「事実認定」と、「賠償」「謝罪」請求の棄却。(20年以上時間が経つと個人の被害を国家が賠償することは認められない。例外があるのが問題)
・繰り返される有力政治家の戦争責任や犯罪行為を否定する発言。
・新しい歴史教科書をつくる会『新しい歴史教科書』

(2)日中戦争についての論争点
@盧溝橋事件について(1937.7.7北京南部の盧溝橋で起きた発砲事件)
・盧溝橋事件の共産党陰謀説
・盧溝橋事件後の日本の「不拡大方針」堅持説
A南京大虐殺まぼろし論
【これらに関してはスペースの都合上詳しく書けないので、興味のある方はネットなどでお調べくださいませ。ただ、戦争に関してはいろいろな方面からの意見を見たり聞いたりする必要があると思います。】

(3)「日中戦争観」「歴史認識」の根底にあるもの
一部の政治家・知識人に見られる「歴史認識」の背景にあるもの。
・「満州事変でやめときゃよかった」論
・「英米には負けたけれども中国には負けていない」論
◎日中戦争の敗北感を持たない日本人
・・市民レベルでの「歴史認識」の必要性
ここで江田氏が教えてくれたこと。
太平洋戦争のとき軍隊400万人中200万人が中国戦線にはりついていた。
原爆投下によって終戦が発表されなければその200万人はどうなっていたかわからない。原爆によって多くの人命が失われ、中国では多くの日本人の命が救われたのだ。

中国人に対して行ったアンケートによると、「日本人が中国人をバカにしている」と思っている中国人は60%に対して、「日本人が嫌いだ」という人は10%である。
つまり我々日本人は全面的に嫌われている訳ではない。
中国人の子供達は確かに日本に対してひどいことを言う、しかし、大人になるにつれて冷静になってくるようである。
総理大臣や東京都知事の発言が日本人全体の意識だというようにイメージが固まってしまうべきではない。
そうさせないためには市民レベルでお互いを理解しあわないといけない。

その後の質問では色々な意見が出た。
・ODA(政府開発援助)で3兆円ほど出している。靖国の事を言い出したのはその後ではないのか。
(これに対しては、それは借款であり、賠償金とは思っていない。しかもその1/3は日本の企業のところに行っている。と江田氏)
・戦後の日本人のアイデンティティがはっきりしなくなった事が原因ではないか。
・中国人側に日本人は自分達の文化を取り入れて初めて発達したのじゃないかという意識があるのではないか。

そのほかにも本当に色々な意見が耳に入ってきた。

それは戦争の体験者であるか、そうではないかでさまざまでとてもじゃないが私の力ではまとめ切れそうにない。

しかし、憎しみからはなにも生まれない、まして戦争などという尋常ではない破壊行為は二度と再び繰り返してはならないという意見に反論を唱える人がいるだろうか。
個人レベルでお互いを理解するしかない、という江田氏の意見に大賛成である。

ページ作成 S53年卒岸政輝 & S45年卒辻岡由起