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演題
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地球環境とエネルギー |
講師 |
渥美寿雄氏(昭和53年卒) |
近畿大学理工学部 助教授 工学博士 |
渥美寿雄(あつみひさお)氏 プロフィール 大阪大学大学院工学研究科修了後、近畿大学に勤務。 |
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1.『はじめに』 一見、テーマと関係の無いことからスタート。 問題1:(平均寿命世界一の)日本とアメリカ合衆国とでは、どちらが100歳以上の人の割合が大きいか。正解:日本は総人口1億2700万人に対して1万8000人、米国は総人口2億9000万人に対して6万5000人で、米国の方が大きい。 問題2:近年、日本の少年の凶悪犯罪は増加しているか。正解:少年の凶悪犯罪は昭和30〜40年がピークなので増加しているとはいえない。統計上、最近の少年強盗は増加しているが統計の取り方の変更による影響が大きく、実態としてピーク時の件数には全然及ばない。 先生はこれを通じて「マスコミの情報は必ずしも真実の姿を映し出していない」、「イメージと事実は大きく異なる」ということを強調されました。環境とエネルギーを考えるうえでイメージだけで理解すると間違えるので、いろいろな情報を比較検討して自分の頭で考えよう、ということです(これは今回の隠れたテーマでもありました)。
2.『環境問題』 環境問題の中心は「地球温暖化(温室効果)」の問題です。「地球の気温が上昇傾向にある」ことと、「二酸化炭素が増加している」のは事実です。ただしこの原因については「人間が二酸化炭素を排出するから」なのか、「太陽活動・地軸の傾きが変化したから」なのかで争いがあり、ほとんどの研究者は前者の説を支持していますが、不明な点も多く断定はできません。ただ、近年の変化が急激なので放置するわけにも行かず対策を講じることになりました。 温暖化すると農業や水資源確保に影響が出ます。必ずしも台風や高潮が増えるわけではありません。因果関係がハッキリしないのです。ただヨーロッパでは、メキシコ湾流(暖流)が流れて来なくなり寒冷化すると予想されており、EUが対策を急ぐ理由がここにあるのです。 二酸化炭素を削減するので世界が協力しようとした取組みに京都議定書(COP3)があります。ところがこの条約は基準とする年(90年)と締約年(97年)の経済状況の変化を考慮しなかったため、締約国間で不公平が生じています(これがアメリカの離脱した理由です)。 日本も今のままでは目標が達成できないのでロシアから二酸化炭素排出権を購入することになるでしょう(日本の目標は90年に比べ6%減。締結した97年を基準にすると15%減でさらに厳しい。ロシアは90年に対して現状維持が目標であったが、その後経済危機に陥り97年を基準にすると40%の増加も可能)。 税金をロシアに支払うより、努力して二酸化炭素削減をしたいのは山々ですが、現実は宅配便が普及し競争が激化した運輸業や、パソコンやエアコンの普及が浸透したオフィスや家庭で思うように省エネが進んでいません。
3.『エネルギー問題』 二酸化炭素の排出は化石燃料の消費によって生じます。では化石燃料はあと何年持つと考えられるのでしょう。過去にいろいろ計算されましたが、良質で採掘しやすい油田には限りがあるのでたとえ油田が発見されても価格上昇や石油獲得競争(戦争を含む)は不可避です。 そこで、二酸化炭素削減の観点からも、エネルギー確保の観点からも、石油を使わない社会にすることが大切です。日本はハードウェアの省エネの技術は優れていますが、生活習慣等ソフトウェアとしての取組みが遅れています。今後は物心両面からの省エネへの取組みが必要です。新エネルギー(自然エネルギー)の利用は勿論、原子力も視野に入れるべきでしょう。
4.『新エネルギーと原子力』 新エネルギーとしては風力発電や太陽光発電が有力です。新エネルギーの利用ではヨーロッパが進んでいると報道されますが、ドイツは意外に石炭火力発電の依存度が高く、原子力依存度も日本と同じようなものです。確かに新エネルギーの割合は多いのですが、現状でも5%ぐらいで、これからは頭打ちになるでしょう。なぜならこれらは風まかせ、お天気まかせで供給が安定しない欠点があるからです。 デンマークの風力発電の割合は20%で、今後はあまり伸びないと思われます。供給の不安定さは全欧から埋め合わせをして賄っています。1980年に原発廃止を決めたスウェーデンも他の代替エネルギーがないことから原子力を継続して使っていますし、新設も再検討しています。日本でも新エネルギーの割合は2030年で10%が限度でしょう。 これに対して原子力は再評価されつつあります。フィンランドでも建設中だしアメリカが30基以上の増設を決定、中国、韓国、インドでも建設しています。二酸化炭素を出さず、安定した供給が可能であることが評価されているのでしょう。
5.『まとめ』 脱石油の観点からも、二酸化炭素削減の観点からも省エネと炭酸ガスを出さないエネルギーの利用を推進すること。マスコミに惑わされず普通の暮らしをすることが大切です。
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<ご参考までに> |