♪若く明るい歌声に〜と聞くだけで、心はずむ世代は少なくないだろう。セミナー
会場では特にそうだ。「昭和20年代と新聞連載小説」の演題だが、会場はその
ころ、同時進行で新聞小説を読んでいた人も目立ち、森先生の話に大きくうなず
いていた。
石坂洋次郎の「青い山脈」、獅子文六の「てんやわんや」、林芙美子の「めし」
など昭和20年代の新聞小説を紹介しながら、その時代背景を考察。「青い山脈」
で女学生が米を売りに来るのは何故か。戦後間もないころ、闇米拒否の判事が
栄養失調死するのがニュースになる時代に、女学生はどうして米を売りに来たの
か。
ところが映画では、米でなく卵を売りに来たことに変わっている。
はたまた男女交際という言葉さえ、どきっとするような戦後ほどないころ、若い
2人の恋の展開に読者はわくわくし・・。そもそもこの時代、新聞は裏表の2頁しか
なく、文字も今と違ってとてつもなく小さくて・・。卵といっても病院の見舞いに持参
するもので・・。「延哉ワールド」は本線をはずれて脱線また脱線。高校の授業の
ころは、この脱線話ばかりを覚えていた御仁も多いだろう。
「若く明るい歌声に」がそのまま先生の著書のタイトルになり、副題に「新聞小説
と<戦後>」。新聞小説の評論風だが、小説の書かれた昭和20年代の世相史に
なっており、講演でも「小説のタイトルを聞くだけでわくわくする」という人も。
また、手を上げて質問した高女の先輩は「私の名はシズコ。菊池寛の新聞小説
『第二の接吻』の主人公にちなんで父がつけました」と話され、びっくり。倭文子と
書いてシズコ。小説は大正14年の朝日新聞に連載されたものだ。ちなみに妹
さんの名は同じ菊池寛の新聞小説「真珠夫人」に登場の瑠璃子だとか。いやはや
講演にはタイムリーな先輩でありました。こんなエピソードが聞けるのも金蘭会
ならではでした。