|
演題
|
遺伝子組み換え食品の安全性審査と一般市民の意識 |
講師 |
高橋 克忠氏(昭和31年卒) |
けいはんな文化学術協会 理事長 |
高橋氏は「遺伝子組み換え食品」について科学者と一般市民の間の温度差をなくす事を目的とする「サイエンス・メディエイター制度の推進」に尽力をつくされている。 とてもよく分かる語り口で和やかに講演してくださった。。 ■遺伝子組み換え作物とは 生き物が姿、形、性質などを親から子へ伝える役割を担っている遺伝子は細胞の核の中の染色体を構成するDNA(デオキシリボ核酸)上に並んでいる。 DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の物質(=塩基)がたくさんつながったような形をしている。この塩基はその並び方で意味を持つ。それをいくつもつなぐことによってたんぱく質を形成していく。 その遺伝子の途中を切断し、たとえば除草剤による発育不良の作用を抑える塩基配列のたんぱく質を挿入する。(この場合、遺伝子の切断や接続は酵素を使って行う、というところが紫外線などで遺伝子が傷つくと言うのとは根本的に違うところである) その結果 ・害虫抵抗性、除草剤耐性の「とうもろこし」・除草剤耐性、高オレイン酸形質の「大豆」・除草剤耐性、雄性不稔性等の「なたね」・除草剤耐性、害虫抵抗性の「わた」・害虫抵抗性、ウイルス抵抗性の「じゃがいも」・除草剤耐性の「てんさい」などが作られている。アメリカ、アルゼンチン、カナダ、中国などその作付面積は日本の耕地面積の10倍以上にもなっている。(1996年から) 2番目の画像はアメリカのじゃがいも畑。普通なら強い除草剤を使うと成長が妨げられるのでこのようにものすごい雑草が生える。ところが除草剤耐性じゃがいもだと3番目のような畑になる。確かにとても省力化にはなるだろう。 ■開発が急がれている理由 1960年に30億人だった地球の人口が2000年には60億人に増加した。その割合で行くと2050年には90億人に達し食料は絶対に不足する。という理論から。 ■遺伝子組み換え食品と一般の食品における安全性(もしくはリスク)評価の違い。 例えば農薬などの化学物質についてはそれを特定して急性慢性毒性の評価をして人体へのリスクを見積もる。 一方遺伝子組み換え食品の場合には次に述べる安全性審査をクリアした上で既存の食品と同等の安全性(人体への影響)を確認する。 ■安全性審査 @挿入遺伝子の塩基配列が判明していて有害な塩基配列がないかどうか。 A挿入されるDNAの塩基配列が有害たんぱく質を作らないか、数代(4〜6世代)の栽培試験で挿入遺伝子の構造・発現が安定しているか。(急性毒性の有無) B挿入した遺伝子が作るたんぱく質の有害性やアレルギー誘発性がないか。(データベース検索) C遺伝子の挿入による派生的な影響。例えば植物の代謝系に作用して意図しない有害物質を作る可能性がないか。(必要に応じて動物を用いて毒性試験等実施) D再評価:新たな科学的知見が生じた時、もう一度やり直す、ということである。 ただ、これらは開発した企業の提出した書類によって審査されているのみらしい。 ■わが国の遺伝子組み換え作物等の研究、開発状況 <遺伝子組み換え作物> ・耐病性、耐虫性、多収性:コメ、小麦、かぼちゃ、キュウリ ・環境ストレス耐性(耐乾性、耐塩性) ・食味、加工特性:トマト、イチゴ ・機能性成分(栄養成分):コメ、なたね <その他> ・遺伝子組み換え微生物、遺伝子組み換え魚 ■消費者の懸念と情報提供 ア、長期間摂取した時に後代にわたる影響はないのか?(子や孫への影響) イ、虫が食べて死ぬものをヒトが食べて大丈夫か。 ウ、アレルギーは起こらないのか? エ、なぜ慢性毒性試験を義務付けないのか? 上記の疑問は家庭の食卓を預かる主婦ならばしごくごもっともだろう。 ア、とエ、については科学者の間では「必要ない」と断言しているらしい。 つまり挿入する遺伝子も本来人間が持っている塩基からなりたっているわけだから安全性審査で十分だという意見。 ウ、については安全性審査Bでクリア。 イ、については虫にあって人間にはない臓器に作用して呼吸を止めるという。したがってヒトには無害だという理論。 時間がもっとほしい!質問したい事がいっぱいあったのに。という想いでいっぱいであった。耐虫性の話を聞いたとき、細菌にあってヒトの細胞にない「細胞壁」を破壊することで効いていたペニシリンの事を思い出した。今ではペニシリンの効かない病気が多い。同様に耐虫性作物耐性害虫が現れるときは来ないのだろうか、除草剤耐性作物と自然交配して除草剤耐性雑草が現れるのじゃないだろうか。 うちの植木鉢にあっという間にはびこるたくましい雑草をみているとそう思う。 むしろ「この雑草を食べることはできないものだろうか」と真剣に考えてしまう。 遺伝子組み換え作物についての考え方は一人一人よく考えて、遺伝子組み換えの話をよく聞いて、自分で判断していくしかあるまい。 もうすでに知らない間に油やしょうゆという形で原料が遺伝子組み換え大豆の食品を大多数の日本人が口にしている時代なのである。 やはり、最終的に言えることは、偏った食生活をせず、睡眠をよくとって、知らずにどのようなものが食品として口に入ってきても上手く対処できる健康な身体作りをしている事が大切だという事だろう。 高橋氏が許可を得て厚生省から借りて見せて下さった画像を掲載させていただきました。 |
|