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金蘭会セミナー


第92回
平成17年10月21日(金)
演題
司法はどう変るか・・・裁判員制度を中心にして 『裁判員制度であなたも裁判員に』
講師
明賀 英樹氏(昭和45年卒)
日弁連裁判官制度改革等推進本部事務局長


東大在学中に司法試験に合格した
というエリートであるが、
語り口は優しく言葉も出来るだけ
易しいものを使おうとする配慮が
感じられた。
まず、陪審員制度がもうすぐ始まると思っていたのが、いつの間にか『裁判員制度』という名前になって、2009年に実施される、と聞いて驚いた。
渡された資料に沿ってリポートをしてみようと思う。

第1、司法改革のながれ
@以前の司法に対するイメージを変えたい。
・裁判沙汰というと暗いイメージがつきまとう。
・時間がかかり費用が高いというイメージ。
(今まで八割の人が泣き寝入りだった。「二割司法」と言われた。)
A各界から不満や改革提言がなされている。
○経済界からは
・迅速な裁判や知的財産権(特許権等)、大型倒産に対応できる専門性を持った人がたくさん必要。
○消費者、市民団体からは
・利用しやすい裁判、資料の不平等性の是正、個々人の権利の実現。
○政界からは
・規制緩和の際のトラブルや被害者への事後的救済の確立。
○弁護士会からは
・1990年代から数回にわたる司法改革提言(要するに使いやすい司法にしよう)ということ。
B司法制度改革審議会の設置と提言(1999年6月〜2001年6月)になされ、政府の責任で次々に立法化された(2001年12月〜2004年11月)

第2、どのような改革が行われたか
@裁判員制度を作る(2009年より実施):後半で詳しく。
・国民の司法参加がないのは先進国で日本だけ。
・昭和3年から15年間、日本でも陪審員制度は存在した。始まったのが10月1日だったので、その日が「法の日」となっている。
A日本司法支援センターの発足(2006年10月)
○アクセスポイントが出来る。
分かりやすく言えば、警察なら110番、救急車なら119番というように、ある番号に電話すれば、そこから適切な相談窓口につないでくれるというものである。これはとてもありがたいのではないかと思う。
○法律扶助の充実
経済的に裕福でない人でも裁判を利用できるように法律扶助制度(裁判費用の立替や援助)のさらなる充実。
10年前まで年間3〜5億円程度、ようやく40億円。(諸外国では数百億円)
○公的被疑者弁護制度を作る
今までの裁判になってからから弁護人をつけるという国選弁護制度をより充実させ、逮捕拘留された段階から弁護人を公費でつける。
○犯罪被害者支援:ケアの問題と手続きへの関与
○過疎地における法律事務所設置
B法科大学院を作る
・司法試験合格を年間500人から3000人程度へ(2006年から新司法試験)
合格率は5割前後か。
・法学部だけでなく、他学部出身者や社会人経験を持った人を幅広く受け入れる事を目指す。(他学部出身者3年間、法律学既修者は2年間で司法試験を受ける資格を得る。)
C裁判官制度の改革:相互に評価しあう、など。
D弁護士制度の改革:大幅増員、報酬の透明化。
Eその他:行政訴訟法改革、労働審判制、知財高裁、プロ野球労組問題、UFJ信託合併問題、ライブドア問題等。

第3、裁判制度とは?(これが今回の本題)
○重大な刑事裁判に国民が参加する制度:有罪か無罪か、有罪なら量刑(懲役何年にするか、執行猶予をつけるか)を裁判官と一緒に決める。
○原則裁判員6人と裁判官3人(例外あり)
○諸外国での司法参加制度
・陪審制(アメリカ、イギリス等):無作為抽出の12人の陪審員で有罪無罪を決める。量刑は裁判官。
・参審制(ドイツ、イタリア等):推薦や希望で選任された参審員と裁判官が一緒に有罪、無罪、量刑を決める
○日本の場合:選挙権のある人の中から無作為抽出、裁判の審理に参加、評議表決をして判決宣告。
○素人でつとまるのか?:裁判員は法律の事を知らなくてもよく、常識に基づいた判断をすることが重要。むしろ法律関係者は裁判員になれない。
○裁判員を辞退できるのか。
原則としては辞退できない。しかし、以下のような場合は出来る事もある。
・70歳以上の人
・地方公共団体の議員で会議の期間中。
・学生または生徒
・過去5年以内に裁判員、検察審査員等を勤めたことのある人
・過去1年以内に裁判員候補者として裁判所にいったことのある人。(つまり、選ばれたが、選任手続きにより6人のうちに選ばれなかった人)
・やむをえない理由:重病、怪我、同居親族の介護、養育、事業に著しい損害が生じる恐れがある場合、父母の葬式等
○かかる日数:呼び出し日は相当事前に分かる。大多数が1〜2日。
○裁判員になる割合:呼び出される割合が一年で330人〜660人に一人。その中で選任手続きで一事件につき6名に絞られるのだから実際はもっと少ないといえるだろう。
○諸外国での経験者の意見:やる前はいやだったが、やってよかったと語っている。今まで知らなかった世界に関与できたという充実感があるのだろうか。

講義後の質問でやはり出た「トラブルに巻き込まれることがないか」ということは誰しも気になることであろう。
裁判員やその親族に対し、威迫行為をした者を処罰する規定が設けられている、とのことだが、あちこちで「処罰される前に殺されたらどうする」というような物騒なつぶやきが・・
明賀氏曰く「実際、裁判官自身も警察に保護されないといけないような凶悪事件があるぐらいだから、そういう場合はおそらく裁判員制度は適応されないのではないか」という説明で、みんなやれやれ。
もう一つ、裁判員をしたために精神的ダメージを受けた時のケアのことについて質問があったが、それについてはこれからの課題の一つであるとのこと。
まだまだ全てが決定された訳ではないので、我々も無関心でいることなく、最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会などのホームページを閲覧したり、分からない事があれば電話で問い合わせたりしたいものである。

最高裁が作った「裁判員制度を
しらせるための広告」が新聞の
一面ぶち抜きで出された。
これからはこういうコマーシャルが
新聞に限らず、TV、ラジオでも
流される機会が増えるだろう
とのこと。

裏表紙の言葉をもう一度。
「国民みんなが参加できる、
身近で、速くて、頼りがいのある
司法を目指します。」

ページ作成 S53年卒岸政輝 & S45年卒辻岡由起