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金蘭会セミナー


第98回
平成18年5月19日(金)
演題
灘の酒造りと四方山話   
講師
西村 顕氏(昭和52年卒)
白鶴酒造株式会社 生産本部部長兼研究開発室室長

最初に運営委員長から、この5月上旬に行なわれたオレンジツアーが無事終了したことに対する報告があった。参加者の最高齢が94歳だったと聞いて、驚いた。、お世話なさった方々に拍手を送りたい。参加者が喜んでくれたことが何よりのご褒美だっただろう。

さて、日本酒の話。西村氏の資料に沿って書いてみることにする。
1、日本酒の歴史
@古代〜朝廷の酒
【縄文時代】には自然発酵のような果実酒が飲まれていた。(井戸尻遺跡)
【弥生時代】今のお通夜に匹敵する機会に飲まれた。(魏志倭人伝:三世紀末)
巫女が噛み砕いたという「口噛み」の酒→穀物酒の原点(大隈國風土記)
供えてある穀物にカビが生じて溶けた→日本酒の原点(播磨風土記)
ヤマタノオロチ八塩折の酒:発酵を八回繰り返して、強くした。(日本書紀)
【奈良時代】は朝廷が権利を握っていた。『造酒司(みきのつかさ)』という役所。
【平安時代】朝廷における酒造法として延喜式があった。
やがてその技術も大きな力を持つ寺院や神社に移行していく。→僧坊酒
2番目の画像は『酒の神々』を祭った神社である。上段は奈良県の大神神社三輪明神。下段は京都の松尾神社、その他、京都には梅の宮神社もある。
A寺院〜酒屋の酒
【室町時代〜奈良時代初期】政府から民間(寺院)神社への技術移転の時代。
寺の日記、御酒之日記や多聞院日記などに記録がある。
前者にはニ段仕込み、乳酸発酵(日本酒造りの基礎)、後者には加温による火入れ殺菌、三段仕込み(日本酒つくりの原型が完成)が載っている。(三番目の画像)
パスツールの低温熱殺菌技術の発明(1860年ごろ)よりはるかに早く(1500年ごろ)日本ではそれが行なわれていたことになる。
B庶民の酒(灘の台頭)〜現代の酒
ここで『灘の酒の特徴』
・370年前に灘の地の良さを見出した。(自然条件、播州米、丹波杜氏の技など)
・鉄分銅分が少なくカリやカルシウムが多い宮水(西宮の井戸の水)の存在
・冷たく激しい六甲おろしが酒造りに欠かせない。
南西日本はいかに冷やすか、北東日本はいかに温めるかが酒造りの課題。
・酒にも男と女があって、灘酒はキリリと男酒。(伏見の酒は女酒)
・江戸っ子に愛された"灘の生一本”
2、清酒醸造の概要
@醸造の原理:簡単に言えば、糖を発酵させてアルコールにすることである。
『並行複発酵』でんぷんを糖化しながら発酵を行なう。同じ釜で。:代表は清酒
『単行複発酵』まず麦芽を糖化して、その液を発酵する。別の釜で。:ビール
『単発酵』糖化を必要とせず、発酵だけを行う。:ワイン
A清酒製造工程
・原料処理工程:『精米』玄米の外側部分の蛋白分や脂肪分を取り除く。(25〜30%、大吟醸の場合は50%)→『洗米、浸漬、蒸米』炊かずに蒸すのは酵母をより繁殖させるため。
・製麹(せいきく)工程:蒸米に麹菌(こうじきん)を生やし、糖を作る工程の事。
・酒母(もと)工程:蒸米と米麹と水とで酵母を拡大培養したもの。酒母造りは酒造りの基本。
・発酵工程:酒母、麹、蒸米、水で醪(もろみ)を造る。酒母に水と米麹と蒸米を三回に分けて加える(三段仕込み。4日掛ける)。その後8〜16℃出20日間発酵させる。
・製成工程:もろみを圧搾ろ過して火入れする。
・貯蔵、瓶詰め工程

なかなか限られた紙面では伝えにくいです。「白鶴酒造」で検索して、ホームページへ行ってください。そこでは詳しく語られています。
いかに江戸へ早くもって行くかが業者の間で争われた。海路が有利であった。江戸へ行く事は「下る」といった。そこから「くだらない」という言葉が出来た。 発酵と腐敗は人の役に立つかどうかで呼び方が変る。 上にも書いたが、清酒は麹で蒸米を糖化しながら酵母で発酵する、それを同時に同じ釜で行なうというのが特徴。この大量の酵母で発酵させるという事が防腐剤を必要としないゆえんなのである。
発酵日数の平均を18日とするならばその一日前で発酵を止めたものを甘口、一日後で止めたものを辛口という。 灘の清酒に使われる米は山田錦。最も高い米らしい。それを蒸米にするまでに種類により25%〜60%精米してしまうのだから清酒の値段が高いのも無理はない。取り除いたものは、それぞれ、糠や上新粉として、使われる。 麹菌がでんぷんを分解して糖にするからこそ酵母菌が繁殖できる訳だから、「一麹」と第一番目に挙げられている理由も分かろうというものである。
日本の国花がサクラと菊であるように国菌というものがあるのを初めて知った。しかし、他の国にはあるのだろうか、国菌が・・ 圧搾ろ過する前の状態を醪(もろみ)という。三段仕込みの一日目を「添」、二日目を「踊」、三日目を「仲添」、四日目を「留添」と呼ぶ。 昔から、程ほどに飲めば(一合ぐらい)百薬の長といわれる。三大疾患や生活習慣病ばかりでなく老化予防や美容にまで効果があるといわれる。飲みすぎては逆効果だが。
『清酒』とは
・日本文化の一端(伝統)を担う。
国を挙げてワインを世界に知らしめようとするフランスとの違い。
日本人は文化を伝えるのが下手だといえるだろう。
・日本人の食生活と密着(食文化)
その土地の料理にはその土地の日本酒が合う。
・酒は百薬の長(肉体的、精神的健康)
・世界に誇れるバイオテクノロジー
【清酒は国酒なのである。】
無礼講として飲まれることの多い清酒だが、礼を尽くした飲み方をしてもいいのではないかと西村氏は言う。

この日の話の後、どれだけ日本酒を飲んでみたいと思ったことか。
これだけ日本酒の温度の呼び方があるとは驚きである。燗でも冷やでもおいしい、数少ない酒である。 ・甘い味付けには甘口タイプ
・濃い味付けには濃醇タイプ
・塩辛みには辛口タイプ
・旨みの強いものには濃醇タイプ
・酸味には甘口タイプ
・香り控えめには吟醸タイプ
・脂っこいものには
 淡麗タイプ(ウオッシュ)
 熟成タイプ(ハーモニー)
最後の例にあるように、結局は好みで選べばいいのである。
ページ作成 S53年卒岸政輝 & S45年卒辻岡由起