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金蘭会セミナー


第99回
平成18年6月16日(金)
演題
現在特許事情ー企業の頭脳戦略ー
講師
小南 典子氏(昭和52年卒)
大阪府立香里丘高等学校事務・大阪大学先端科学イノベーションセンター客員研究員・関西大学大学院ビジネススクール経営戦略研究科非常勤講師(知的財産権法担当)


なんだか難しそうな演題だなーと思いながら臨んだが、明朗快活な話し振りで、どんどん引き込まれるように聴いてしまった。
とはいえ、簡単に片付けられる問題ではないので、資料に基づいてリポートする事にする。
1.知的財産って何?
【知っていることが財産】知っていることが財産になること。限られた人が知っていることに価値があるので、他の人に知れてしまった価値は無くなってしまう。つまり、ばれたら終わり。リカバリーが効かないというところが大きなポイント。
知的財産のことを法律分野では、『無体物』と言う。無体物とは、文字通り形がないもののこと。だから、●受け取る人によってまったく価値が違うもの。(例えばあるアーチストのプライベートコンサートがどこそこである、と言っても、知らない人にとっては関心がない)。さらに、●使う人によっても価値が違う。(例えばあるギャクにしても使うべき人が使うとお金になるが、それ以外の人が言ってもしらけられるだけ)。その他の特徴としては●何人にでも売れる。また、●劣化がわからない。(つまり、もうばれているのか、どの程度ばれているのか、目に見えないからわからない)。などの特徴がある。
2.知的財産制度の概要 【財産権の考え方】
知的創造活動について、その創作者に権利保護を与えるもの。この財産権というのは法律があって初めて生じるものである。知的財産権法の主なものは特許法、商標法、著作権法などである。
一方、法律のないところに知的財産はいっぱい存在する。例えば自分の家の戸は少し右側を持ち上げないと上手く開かないと言う事柄も「知的財産」なのである。それに関する法律がないから、財産権にはならないだけ。これを見ても、人によって、価値のあるなしがある、ということがよく分かる。家族にとっては価値があるが、それ以外の人にとっては何の価値もない。
3.知的財産権制度の特色
【明治維新政府は大胆だった】市場での取引の基本法である民法よりも、特許法が先に作られている。物や債権という有体物の取引を規定している民法よりも、特許権という無体物を規定している法律を先に作ってしまった。とにかく、明治政府は外国の技術が欲しかったのだ。また、民法は基本法として証券法、商法、会社法などの基盤となっているために容易に変更できない。特許法などは比較的容易に改変できる。例えば実用新案権は6年から10年に変更されている。
4.知的財産権の特色
【無限大の可能性】とある。小南氏は「青天井」と表現する。つまり、有体物なら例えば売ってしまうと手元にはなくなるが、知的財産はそうはならない。何人にでも売れる、ということである。
5.特許法の概要
【申請し、自己防衛してこそ価値が出る】特許権は特許庁に『申請』する。特許庁の玄関を一分でも早くまたぐものが優先される。「新規性」と「進歩性」が要求される。そして申請してから3年以内に『審査』を願い出る。この3年以内というのは「申請はしたけれどやはり止めよう」という場合もあるから。自信のある場合は申請と審査要求を同時にしてもかまわない。その後『登録』されると、以後20年間、特許料を払い続ける。そうして初めて独占権が与えられるという訳である。特許料は文章で提出された内容の一くくりごとにいくらと決められている。したがって、複雑な技術になれば金額も高くなる。
6.特許法の特色と落とし穴
【独占のメリットと公開のリスク】独占のメリットというのは独占権のある間に市場を独占できるという意味。開発にインセンティブを与えるもの。一方で、公開という制度があるのが大きな特徴。特許は、申請すると、1年半で内容が全て公開される。登録されたものも公開される。この公開というのがなぜ行なわれるのかということだが、@二重投資が防げる。社会資源の節約になる。Aこの程度で特許が取れるのなら自分はもっと上を目指せる、と思わせられる。などの理由である。
この、独占と公開のシステムを使っての、企業の実際の特許戦略事例が紹介された。まさに、頭脳戦である。
7.特許流通という考え方
【大化けする技術】技術開発したけれど結局使わなかった、という技術がほかの事で花開く場合もある。例としては、酵素配合の洗剤、今となっては珍しくはないが、あの酵素はバキュームカーのために開発された技術であった。繊維質でつまりがちなるバキュームカーの仕事の能率を上げるために。完成したころにはバキュームカーそのものの需要がほとんどなくなっていたので、違う分野に転用された。もう一つはバブルの頃の豪華な車内塗装に使われた技術が、今は棺桶業界で花開いているという。

さて、「いっちょ特許を取ってやろうか」という方はおられませんか?



ページ作成 S53年卒岸政輝 & S45年卒辻岡由起